和尚のひとりごと

曹洞宗 島田地蔵寺 「和尚のひとりごと」です。
良寛さんの嘆き

上越新幹線の脱線もあった。土砂崩れの中での親子三人の救出作業は「もっと早くもっと早く」と日本中が無事を祈った。あの中越地震から五ヶ月になる。
阪神大震災を上回る規模の地震で、死者は少なかったとはいえ、家屋の破壊は一部崩壊まで加えれば三万八千五百二十三棟に及んだというから、避難された方はこの数倍になるだろう。加えて、この冬は十九年ぶりの大雪。被災地の皆さんはこの春をどんなに待ちこがれたことだろうか、陽光を存分に楽しんでいただきたい。

調べてみるとこの地はたびたび地震に襲われている。少し古いが、一八二八年冬には三条大地震が起こっている。死者千四百十三名、家屋の崩壊九千八百八十戸と記録されているから全滅である。
この三条大地震にはかの良寛さんも遭遇している。その時七十一歳。幸い少し離れていて被害にはあわれなかったようだが、この時、親しき友人に
「災難に逢ふ時には災難に逢ふがよき候 死ぬる時節には死ぬがよく候 是はこれ、災難をのがるる妙法にて候」
との手紙をしたためている。
ところが最近、これを「良寛さんもこう書いている、災難はいたしかたない」と解説している文章に出くわした。この解説には異議がある。果たして良寛さんは自然の猛威に「あきらめの心境」だったのだろうか。
良寛さんはこの手紙では一見薄情だが地震の直後に

日々夜々寒裂肌 漫天黒雲日色薄
匝地狂風巻雪飛 驚涛蹴天魚龍漂

意訳 寒さが肌を裂く
黒雲が天を覆って日はない
   地上を吹く狂風は雪をまく 
波は天を蹴り大魚も自由を失う

と、天地の暴挙を描き、更に

四十年来一回首 世移軽靡信如馳
況復久褻太平 人心堕
将錯就錯幾経時 慢己欺人為好手  
此度災禍不亦宜 ・・・
各慎其身莫効非

意訳 この四十年を振返ってみると
世の風潮の軽々しさは馳せるが如く
久しく太平になれて人心は弛み落ちた 
まさに悪風に悪風を重ねている
自分に慢心し人を欺くことが
よきことのようになっている
こんな有様だから災害が起こったのか
皆、身を慎んで、非を真似てはならぬ

と続く漢詩を残している。この文調と原因を人心の荒廃にまで言及する激憤ぶりはとても良寛さんとは思えない。それでも冷静になられたのだろうか、

かにかくにとまらぬものは 涙なり
人の見る目も しのぶばかりに

とかなしみの歌も残されている。
「災難に逢うふときは・・・」は親しき友人への思いから発せられたもので、むしろ激励であり、やりきれない思いを隠して、悲しみは悲しみとして「さぁ始めよう」と新しい出発を促している手紙であると私は思っている。
ともかく、書き物、それも文人偉人といわれる人の文章は背景、時代性なども加味すれば味わいが更に深まる。文面だけの理解は間違いのもとと思っている。


日時 2010年05月12日 15:30 | 分類項目: 和尚のひとりごと | 固定リンク(この記事のURL)


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